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インドラの網制作

インドラの網制作

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宮澤賢治「インドラの網」という物語は、

ツェラという高原を歩いているうちに、ふと“天の空間”に滑り込んでしまった主人公が、天人、蒼孔雀、天界の太陽などを目にする幻想的なお話です。

インドラの網の制作を始めたそもそものきっかけは、

円覚寺龍院庵様、ギャラリーえにしさんにて行う予定の奉納個展ライブを中止にしたことにありました。

中止の報告をお読みになった方が、

帝網珠という老師の言葉で、宮沢賢治に「インドラの網」という詩的で幻想的な小品があったのを思い出しました。若い頃は良くわかりませんでしたが、一即多やすべてのつながりを描いていた作品だったように思います。

久々に読み返してみたくなりました。

ありがとうございました。」と

お言葉をいただき、

それは、私にとっての一転語となり、すっかり忘れていた作品をじっくりあらためて読み返したのでした。


そして私は賢治の心象風景を墨で、私の心象の風景として描きたい気持ちに駆り立てられたのでした。


ちょうど12(360)の壁紙(手漉き、三層)が残っており、何故だかこの大きさに描きたい気持ちにかれれ、紙をひろげ、しばらく眺めては「インドラの網」を読みまた紙を眺め、

次々と、曖昧な霞がかったものが頭に浮かんでは消えていきましたが、体だけが動いて設計図もないまま線を引いていました。


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12尺(360㎝)、壁紙軸装。

両界曼陀羅のような帝網珠の世界

華厳経

賢治の 物語の世界

丸三角四角、天人、日輪、コウタン大寺の子供達、蒼孔雀、風の太鼓 帝網珠・・・

これらの素材がグルグル頭の中を巡りながら、短編の書物を何度も繰り返し読みました。


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あとはもう取り憑かれたように筆を走れせ線を引き続けました。

私は絵描きではありませんのでその線は書を描く時と同じ筆致と言えます。

勿論、墨だけで描こうと、

決めただけで、いつものように設計図や墨色を計算準備することなく磨っては描き、磨っては描きしました。

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このように何も考えず、

描いた線からなる形が次の線を呼ぶような感覚は

初めての経験でした。

「天の空間は私の感覚のすぐ隣りに居るらしい。(インドラの網より)」

時折そんな感覚を賢治と共有していたといえば大袈裟かもしれませんが、私はそのような寂められた時を過ごしました。


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「まことに空のインドラの網のむこう、数知らず鳴きわたる天皷のかなたに空いっぱいの不思議な大きな蒼い孔雀が宝石製の尾羽をひろげ かすかにクウクウ鳴きました。その孔雀はたしかに空には居りました。けれども少しも見えなかったのです。たしかに鳴いておりました。けれども少しも聞こえなかったのです。」インドラの網より

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後に太鼓を描き加えました。

「誰も敲かないのにちからいっぱい鳴っている、百千のその太鼓は鳴っていながらそれで少しも鳴っていなかったのです。」インドラの網より

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絵でもなく書でもない、墨を何度も重ねて色を重ね、線を引き続けることがあの時の私にとっては、何も考えずにいられる穏やかな時間でした。

私は「心如工畫師」という華厳経唯心偈の一節が好きでよく描きますが、清水公照さんの書物『花ぼとけ』に、「心如工畫師」についてこう記されていることを思い出していました。


「人生という一幅の絵は、絵筆をおこうとする頃、墨絵のように浮いてでる」と。

一ヶ月半、筆をおいておもうのは、

こんなことしかできなかったなあ、と。

それでもやり終えた満足感だけが残るのでした。老師は今頃笑っていらっしゃるでしょう


※インドラ(バラモン教、ヒンドゥ–教の神様の名で漢訳で帝釈天のことです)は、須弥山に住んでいて、その宮殿の周りには巨大な球場のインドラの網が張られていると言います。その網の目には美しい珠が縫い込まれ、美しい珠は映しあい、また他の珠にも映しあっていくという無限に続く美しい輝きの世界を表しています

※インドラの網 宮沢賢治 角川文庫


最後にたいせつなことを思い出させてくださった、古澤 範英さんに心から感謝申し上げます。

 

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by sumiasobihito | 2020-06-21 00:54 | Trackback | Comments(0)

生きている墨の美しさ、生かされていることの有難さ。表現者としての記録


by sumiasobihito桃蹊
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