心象の風景 大和言葉・萬葉集を描く (奈良に生かされて)
2020年 02月 02日
大和言葉を描くきっかけは、十数年前から狂言を学ぶことに始まります。
狂言のセリフは、大和言葉やということを教えていただきイントネーションを直され続けています。
そして、暮らしてみて理解する大和、奈良って、深いなあ〜と感じます。
奈良に生まれ育った子らは難なく話す(狂言のセリフも)大和言葉のイントネーションを私は、子らよりもよほど長く奈良に生きているのにうまくいきません。
それはそうやと思います。
私はその音の響きの心地よさに惹かれ
言霊が音霊とともに見せてくれる風景を、
いつの頃からか、
「心象の風景を描く」と呼んで制作しています。
描くことを意識しているうちに、それは書でも絵でもなく
同時に書のようでもあり、絵のようでもあります。私にもうまく説明できないのですが、このように描けと墨色が言うのです。
ひこばえ
倒れた樹木の切り株から新たに芽吹く、根っこに生えた小さな芽
New sprouting
むすひ(産霊)
縦横に組まれた有機的生成力生まれくる力
The born energy
星月夜(ほしづくよ、ほしつきよ)
星が、月があるかのように輝く夜空
Starry night
にわたずみ(潦)
雨が降った後の水たまり
Rain puddle
たまさか
もしかして、ひょっとすると
Possibly
ゆくりなく
思いがけず
Unexpectedly
萬葉集を描く 心象の風景6作
①かなしかりけり
世の中は空しきものと知る時し
いよよますます
かなしかりけり
萬葉集 巻第五-793 雑歌 大伴旅人
When I realized this would is an empty thing,
then all the more I felt a deeper and deeper sorrow.
余能奈可波牟奈之伎母乃等志流等伎子伊与余麻須万須加奈之可利家理
②月船
天の海に雲の波立ち月の船 星の林に漕ぎ隠る見ゆ
萬葉集 巻七1068 柿本人麻呂
On the sea of heaven
the waves of clouds rise,
and I can see
the moon ship disappearing
as it is rowed into the forest of stars
天海丹雲之波立月船星之林丹榜隠所見
③跡なきがごと
世の中を何に譬へん朝びらき漕ぎ去にし船の跡なきがごと
萬葉集巻三 351 沙弥満誓
世間乎何物尓将譬旦開榜去師船之跡無如
To what shall I compare
this life?
the way a boat
rowed out from the morning harbor
leaves no traces on the sea.
④その山道を
み吉野の 耳我の峰に 時なくそ 雪は降りける 間なくそ 雨は零りける その雪の 時なきが如その雨の 間なきが如 隈もおちず 思ひつつぞ来し その山道を
萬葉集巻一25
On Mimiga peak in beautiful Yoshino snow was falling,unbounded by time,rain was falling,without interval.
The road that I have come,deep in longing with every dend,like the snow,unbounded by time,like the rain,without interval-O that mountain road!
⑤みなわなす
水沫なす微き命も栲縄の千尋にもがとねがひ暮らしつ
萬葉集巻五-902
水の沫のようにもろくてはかない命だけれど、楮で作った縄のように、長く長くと願いながら毎日を過ごしています。
Even if life is ephemeral like water bubbles
I pray every day for a long life like a rope
水沫奈須微命母 栲縄能 千尋尓母何等 慕久良志都
⑥あをによし
あをによし寧楽の京師は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり
萬葉集巻一 328 小野老
To capital at Nara,
beautiful in blue earth,
flourishes now
like the luster
of the flowers in bloom.
青丹吉寧楽乃京師者咲花乃薫如今盛有
3月21、22日の個展で展示いたします。
※萬葉集英訳 ⑤を除きリービ英雄さんの「英語で読む万葉集」と「Manyo Luster」から引用しました。