氷室神社御造替一隻六扇(六曲)屏風の物語

 氷室神社ご造替奉納屏風の制作を終え、屏風として描いた作品の表具の仕上がりを待つばかりの今があります。

少し、燃え尽き何とやらを過ごし、奈良の愛する場所を目的もなく呼吸を調えに歩きます。

東に向かえば、いつもそこに御山が目に飛び込んできます。

私は、私の表現は書を書くのではなく、描くのだと思っています。心象の風景に言霊を響かせたいという理想が私には常にあります。
ですから、こうした広がりのある奥の深い奈良の景色は、創作の糧になります。


六曲の景色は、一枚パネルとは趣の異なるものですので、曲と空間が伝える意味を問い続けました。

氷室神社の由来や宮司様の想い、

春日野や東の御山(蓋山)の景色を、心象の風景として書で描きたいと考え続けました。

そして日の出と御山の稜線は、私の中にいつもあって景色の核になったのでした。
かわらないもの」と、いう最初にいただいた宮司様からの
メ ッ セ ー ジ と、ともに。


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屏風というものは、大概右から左に観ていきます。(決まりではありませんが)
その、横に視線を移していく時間は、縦に移す時間とは異なるものと感じています。
巻子本に観るように、時間と景色の移ろいはまさしく物語なのだと思うのです。
物語を、心象の風景として描きたいと考え、その構想と言の葉探しに大半の時間を費やしました。屏風に物語を描いたものは日本画に数多く見受けられます。
色彩豊かにまた空間を活かしたその屏風全体の作り方は大変参考になり、何度も美術館に足を運びました。


●構想
日の出と御山の稜線を象徴的に描きいれる


落日


●構想

✏︎構想1 .......「春秋 命咲く
✏︎構想2........「森羅萬象命煌めく」
✏︎構想3 ........六扇の物語を作る 1春(兆) 2日(日の出)3夏(森)4秋(羅)5冬(万象)6寧楽✏︎
✏︎構想4.........物語変更 1春(兆し)2夏(森)3秋(羅)4冬(万象)5暁(日の出)6平和(寧楽百首 笠山霞)

●構想から物語へ
御山の物語
春(兆し) 不可視のものの気配を運ぶ鳥霊
夏(森) 木々の煌めき、生きる息吹
秋(羅) 実りの恵みは取りこぼすことなく網羅する山
冬(万象) 凍てる大地に、ありとあらゆる全てのものが寡黙に命を育む
暁(日の出) 春夏秋冬日は昇り来て巡る命
平和(寧楽 笠山霞) かわりなく暁に霞む平和な営み

一扇、二扇

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 三扇、四扇                                

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五扇、六扇

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寧楽百首

燦々謄光数抹霞 暁天染出翆峰花

虹錦須臾風吹去 散為點々幾多
(燦々(さんさん)たる謄光(とうこう) 

 数抹(すうまつ)の霞(か) 
 暁天 染め出だす 翆峰の花
 虹錦 須臾(しゅゆ)にして 風 吹き去り
 散じて 點々たり 幾多の鴉


 




      ●文字を調べる


  制作の始まりは、まず文字調べから始まります。

  書は文字を描くものですから誤字は許されません。

  間違った形や意味をそのままにして描けば、間違った情報を伝えてしまうことになると考えます。

 (最初は「森羅万象命煌めく」と言の葉を選びました。

  しかし最終的には、抽象的なものも加えて「森羅万象」としました。)


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「森羅万象」

発句経に曰

森羅及萬象 法之所印 亦不爲 被諸數故  佛教祖訓  若合符節審細究取  到這裏且問諸仁者  萬法歸  歸何處 速道 速道


「森羅」は、森が羅列していると書くため、木々が限りなく生い茂っていることを表しています
「万象」は、あらゆるものを指す万物という言葉に、あらゆる現象を合わせた言葉です。

「萬」は、蠍の象形。本来表していたのはサソリではない、という説もあるものの、サソリに似た虫であったことには間違いがないでしょう。古代中国では、その虫の名前が、数字の10000を表すことばと発音が似ていたため、「萬」は10000の意味で用いられるようになりました。こういう用法のことを仮借(かしゃ)と言います。
「象」は、長い鼻の象の象形 ゾウ、かたち、かたどる、典、道理の意味です。普賢菩薩は象にまたがり、文殊菩薩は獅子にまたがっている絵や彫刻があります。獅子は仏の智慧を、象は仏の慈悲を表していると言われます。

絶えることのない広い世界を示す「森羅」の中に存在する、形あるすべての物と、起こりうる全ての現象である「万象」が合わさって生み出された言葉、森羅万象とは、「この世に存在する全ての物や現象」を意味します。人間が想像可能なありとあらゆる事象のことを示す言葉です







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縮小屏風試作

屏風全体に淡く強く東の御山の稜線を描きいれる











屏風について


基本的な構造は矩形の木枠の骨格に用紙、用布を貼ったもので、この細長いパネルを一扇といい、向かって右から一扇、二扇、と数えます。

これを接続したものが屏風の一単位、一隻(一畳、一帖)です。

 かつては屏風側から見て右側を右隻、左側を左隻と呼びましたが、近年は向かって右側を右隻、左側の屏風を左隻と呼ぶ傾向にあります。

奈良、平安時代は、一隻六扇(六曲)が一般的で、扇を革紐などで繋ぎ、

一扇ごとに縁をつけていました。
 鎌倉時代に紙製の蝶番が案出され、現在のように前後に開閉可能になりました。また、縁も二扇ごと、さらに一隻全体に回らされるようになり、屏風全体が一続きとなると大画面がいつ幻するようになりました。

 14世紀前半に二隻(一双)を単位とする六曲一双形式が定型となりました。江戸時代に入ると、二曲や八曲の屏風も現れるようになります。



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by sumiasobihito | 2018-09-01 19:20 | Comments(0)

生きている墨の美しさ、生かされていることの有難さ。表現者としての記録


by sumiasobihito桃蹊
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